まだ無名だったサザンのレコードを発売日前に買ったのだ
多分ですが、写真の「勝手にシンドバッド」のレコードは、日本で最初に売れたサザンオールスターズのレコードだと思います。
勝手にシンドバッドの発売は、1978年6月25日。
でも、このレコードを僕が買ったのは、その前日の6月24日です。
僕は実はレコード会社にいたことがあるので、ある程度内部事情は知っていますが、基本的にはお店が発売日前日にCDやレコードを店頭に並べる事はありません。
今でこそサザンは大スターですが、その当時まだ無名だったサザンのレコードを発売日前日に買った人がいるとは思えません。
だから、発売日前日にサザンのレコードを買った僕は、多分、日本で最初にサザンのレコードを買った人間なのです。
多分……。
どうして、当時全く無名だった。サザンオールスターズのレコードを、たまたま発売日の前日に僕が買ったのか。
そのお話ししてみたいと思います。
当時のしゅんべいが聞いていた洋楽
1978年当時、僕は高校1年生でした。
中学でビートルズやローリング・ストーンズにはまってから、好きな音楽は洋楽、特にロックだったのさ。
こんなのを良く聞いていたんだ。世代だな。
ザ・ローリング・ストーンズ | レッド・ツェッペリン | エアロスミス | レインボー | ボブ・ディラン | チープ・トリック |
ブラック・アンド・ブルー | プレゼンス | ロックす | 虹を翔る覇者 | 欲望 | 蒼ざめたハイウェイ |
こんな感じのものを聞いていました。
当時の日本の音楽
当時の日本の音楽はと言えば、山口百恵、ピンク・レディーなどのアイドルや演歌が主流でした。
沢田研二がバンドでやり始めた頃で、バンドで出した曲は好きでしたが、やはりどこか歌謡曲っぽい。
ロック好きの僕としては、何とか日本のロック・ミュージシャンにも頑張ってほしいと思っていたんだけど、これといったミュージシャンには出会えてなかったんだよね。
その頃、やっとロック系のミュージシャンがテレビに出始めた頃でもあって、人気だったのはチャー、世良公則、原田真二などでした。
チャーはアルバムの中では英語の良い曲もあったのですが、日本語の曲になると、フォーク系のミュージシャンの歌詞を使ったり、歌謡曲の作曲家の曲を使ったりしていて、日本語の曲は半分ロック、半分歌謡曲みたいな歌謡ロックでした。
世良公則は歌い方が演歌のこぶしのような感じがして、演歌ロックだなと思っていました。
原田真二はとてもおしゃれな曲を作っていましたが、それでも心に深く刺さりはしませんでした。
今までの歌謡曲の人たちと比べると、はるかにロックぽかったけど、胸に刺さってくるほどではなかった。
でも、ロックが日本に浸透し始めてきた感触はありました。
勝手にシンドバッドとの出会い
その頃、僕は、仙台に住んでいました。まだ、田舎だった頃です。
仙台の高校生にとって、テレビで見る歌謡曲以外の音楽情報と言えば、FMラジオ。
それもNHKだけ。
FM以外のラジオは音が悪いので、あまり聞いていませんでした。
よく聞いていたのは、渋谷陽一と甲斐よしひろの番組。
数少ない番組を必死で聞いては、ラジカセに録音していたんだよ。
サブスクなんてなかったからね。
こんな感じのアイワのラジカセです。
確か、高校1年生から2年生に上がる春休みだったと思うのですが、ある夜のこと、僕は甲斐よしひろのラジオ番組を聞いていました。
彼は、こんなことを言ってある曲を紹介しました。
最近、僕の1番お気に入りの曲です
当時、ラジカセで洋楽や日本のロックを片っ端から録音していた僕は、慌てて録音スイッチをしました。甲斐よしひろお勧めの曲は気に入ることが多かったからです。
お気に入り?
絶対に録音しなきゃ!
えっえっえっ、ちっとまってよ!!
しかし、タイミングが少し遅かった。
その時、甲斐よしひろは「〇〇の勝手にシンドバッド」と言ったのですが、録音されていたのは「勝手にシンドバッド」という曲のタイトルと、その後に続く曲だけでした。
その曲を聞いた僕はびっくり仰天。
何が起こったかわからないほど、ショックを受けました。
これはとんでもない曲だ。
夢中になって、「勝手にシンドバッド」だけを何度も何度も繰り返し再生しました。
すげー曲だ!
とんでもないバンドが現れたもんだ!
日本のロックの夜明けぜよ!
でも、いったい誰なんだ、こいつらは?
曲にドはまりしたものの、曲名しか分からない。バンドの名前が分かりません。
でも、僕は楽観的でした。
これだけすごい曲なのだから、すぐにテレビやラジオ番組に登場するだろうと思っていましたから。
バンド名が知りたい一心で、テレビやラジオにかじりつくようにしていたのですが、一向にかかりません。
だんだんとモヤモヤしてきました。
しかし、ヒントは意外なことろにあったのだ。
その当時、僕はFMファンという雑誌を買っていました。
FMラジオの番組表を中心に様々な音楽を紹介する雑誌でしたが、当時、音楽情報の少なかった仙台の高校生にとっては、とても貴重な情報源でした。
こんな雑誌です。
そして僕はふと、少し前にその雑誌で見たアマチュアバンドの記事のことを思い出したのです。
なんか、それらしい記事を読んだことがある気がするぞ……
慌ててバックナンバーのページをめくってみると、「サザンオールスターズ」というアマチュアバンドが湘南でライブをやった時の記事でした。
そのボーカルの名前がが桑田K祐。
(記事の中では「佳」ではなく「K」だったのをはっきり覚えています。「祐」はどうだっだか覚えていませんが……)
原U子の名前もありました。(間違いなく「U」でした)
桑田の方はしゃがれ声で、イーストウェストというコンテスト(有名なコンテストらしいのですが、仙台の田舎者は聞いたことがありませんでした)で、ベストボーカリスト賞を受賞していると言うことでした。
「勝手にシンドバッド」を演奏していたのは、この「サザンオールスターズ」だ!
と思いました。
これだ! これに違いない!
それらしきバンドは見つけたものの、100%の確信がないまま月日は経過しました。
僕は一応、下手くそなりにバンドを組んでいたので、高校2年生に上がるとバント仲間や音楽に詳しい友達に聞いて回りました。
でも、誰も「サザンオールスターズ」や「勝手にシンドバッド」のことは知りません。いつまでたっても、テレビにもラジオにも出てきません。
とうとう見つけた、これが勝手にシンドバッドだ!
しびれを切らした僕はレコード店に行ってみることにしました。
それが、1978年6月24日のことです。
なぜ覚えているかと言うと、6月24日は僕の誕生日だからです。
いくら売れていないとしても、甲斐よしひろがラジオでかけたんだから、レコードくらいは売ってるだろうよ。
レコードを買って自分へのプレゼントにしよっと!
まずは、仙台の一番町の大きなレコード店に入りました。
ヤマハだったと思います。
ググってみたことろ、今はその場所にないみたいですね。
しかし、「サザンオールスターズ」というバンドのレコードも、「勝手にシンドバッド」という曲のレコードも見当たりません。
隅から隅まで探しましたが駄目でした。
大きなレコード店を出て、どうしたものかと途方にくれていると、少し先にある小さなレコードが目に入りました。
大きな店にないのだから、小さな店にある確率は少ない。
心の中の声はそう言っていたものの、諦めきれずに、その店に入りました。
こんな感じの演歌中心の店だったと思います。
親切そうなおばちゃんが1人でやっている感じでした。
そこでレコードをあさっていると、おばちゃんが声をかけてきました。
何か探してるの?
「勝手にシンドバッド」と言うレコードはありませんか?
多分、サザンオールスターズってグループのレコードだと思うんですけど
おばちゃんは「聞いたことがないね」と言いながら、店の中のレコードやカタログらしきものを調べてくれました。
でも「ないよ」というのが結論でした。
がっかりした僕の顔を見て、おばちゃんも申し訳なさそうな顔をしていました。
肩を落として帰ろうとした時、おばちゃんの顔が急に明るくなりました。
ちょっと待ってて。そういえば、明日発売のレコードが裏にあるから見てくるね
えっ、そんなのあるんだ!
おばちゃんはそう言って、バックヤードに姿を消し、しばらくして戻ってきました。
そして、その時、おばちゃんが手にしていたのが、まさに、このレコードでした。
すげぇ!
やっぱり、「サザンオールスターズ」の曲だったんだ」
僕はとうとう巡り会えたレコードを手に、おばちゃんに大きな声で「ありがとうございます」と言って家に帰りました。
親父のでかいオーディオコンポにセットして、レコードに針落とすと、聞こえてきたのは、まさにラジカセで何十、何百と聞いたあの曲でした。
嬉しくて、嬉しくてたまりませんでした。
サザンオールスターズ、夜ヒットに登場!
レコードは手に入れたものの、少しだけ戸惑いもありました。
だって、ジャケットに映っているメンバーの姿から察するに、かっこ良いバンドではなさそうでしたから。
ジャケットの写真の印象は「ださい」だな。(ごめんなさい)
しかも、ボーカルが下を向いていて顔が見えないようにしてるじゃん。
これってイケメンや美女じゃないミュージシャンのジャケットにありがちなやつ。
チャーも世良公則もかっこ良かったですからね。
しかし、そうなると、逆にテレビで見て確かめたくなります。
しかし、サザンオールスターズはテレビにも出ないし、仙台のラジオでもかかりません。
しかし、レコードを買ってから約1ヵ月以上たった7月31日、とうとう「夜のヒットスタジオ」でサザンオールスターズが登場しました。
その姿を見ることができたんです。
ランニングと短パン姿で、リオのカーニバルの南米の派手なお姉ちゃんたちをバックに歌うその姿は鮮烈でした。
確かにボーカルの桑田佳祐(デビュー後は漢字になってましたね)はイケメンじゃなかったし、バンドの見た目もダサかったけど、そんな事は全部吹っ飛ぶくらい感動したんだよ!
これが僕とサザンオールスターズと出会いです。
僕はその数年後、レコード会社に中途入社することになりました。
その頃はレコードの発売はほとんどなくなっていて、完全にCDが主流になっていたのですが。
いずれにしても、CDやレコードは発売日の前日にレコード店に届きます。
しかし、早く届いたからと言って発売日の前日にCDを並べてしまうと、発売を待ち望んでいる客が我先にと殺到してしまい、真面目に販売している店の売上を奪ってしまうことになります。
だから、基本的にCDを前日に店に並べる事はありません。
無名のアーティストなら尚更です。
売れる確率の低い無名の新人アーティストのCDを並べても、ほぼほぼ店にメリットはありませんから。
1カ月の間に各レコード会社が沢山の新人をデビューさせます。
でも、ほとんどの新人は売れないんだよね。
驚くほどだよ。
そんな、売れる保証のない新人のCDですから、店が仕入れてくれる保証さえありません。
店主の方針にもよりますが、規模の小さな店は新人のCDなど仕入れないことがほとんどです。
つまり、僕の持っているこの「勝手にシンドバッド」が、日本で最初に売れたサザンのレコードである確率は相当高いと思います。
たまたま、レコード店に行った日が発売日の前日だっただけのことだけどね。
自慢のできるものなどない僕ですが、このレコードを持っていることだけは、密かに自慢に思っていました。
持っていた洋楽のレコード、サザンやチャーのレコードなどは全部処分してしまいましたが、この「勝手にシンドバッド」だけは、名残惜しくて、手放さずに残していました。
そして、このブログで紹介させて頂きました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
コメント
Its like you read my mind! You appear to understand so much about this, such as
you wrote the guide in it or something. I think that you just could do with some % to power the message house a little bit,
however other than that, that is excellent blog. A great read.
I’ll definitely be back.